イギリスアンティークチェアとは?歴史の流れと椅子の様式別デザイン

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イギリスアンティークチェアとは?歴史の流れと椅子の様式別デザイン

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アンティーク 椅子 イギリス

イギリスアンティークの椅子は、日本のものには見られない西洋の貴族文化の薫りを感じるものがたくさんあって、ついつい心惹かれてしまいますよね。
イギリスには伝統を重んじる文化が根強く、古い家具も何世代にも渡って大切に使われてきました。また、歴史的に見ると戦場となった機会が少ないということもあり、現代にいたっても多くの家具がアンティークとして残っているんです。アンティークチェアというとイギリス製のおしゃれなデザインがたくさん見つかるのも、そうした理由によるものなんですね。
しかし裏を返せば、膨大な種類の中からお気に入りの1脚を見つけ出すのに苦悩してしまうこともあります。アンティークとの出会いは一期一会というところもありますが、イギリスアンティークチェアの全体像を把握しておけば、アンティークチェア選びの際にも役立つことがあるかもしれません。
そんなわけで、この記事では、長い歴史のあるイギリスアンティークの椅子について、その歴史を紐解きながら、どのようなデザインの種類があるのか丁寧に解説していきます!
イギリスアンティークの椅子について理解を深めたい方は必見ですよ。

Contents

イギリスアンティークの椅子の注目ポイント① 木材の種類に注目!

はじめに、イギリスアンティークチェアを見る際に注目したいポイントを把握しておきましょう。ポイントのひとつめは、使われている木材です。ヨーロッパの家具の歴史を見てみると、時代ごとに、家具に使われる木材のトレンドが変化しているんです。イギリスのアンティークの椅子もこれに当てはまり、時代を追うごとに、おもに「オーク材」「ウォールナット材」「マホガニー材」の3種類が使用されています。まずは基礎知識として、それぞれの特徴を知っておきましょう。

17世紀までのイギリスアンティークチェアに最もよく使われている木材。堅くしっかりとした質感の「オーク材」

イギリスアンティーク 椅子 オーク材

古くからヨーロッパに多く生育していた木材のひとつに、オーク材があります。身近に手に入れることができたことに加え、強度や耐久性にも優れていたことから、なんと古代ギリシア・ローマの時代からすでに家具の材料として使われていたんだとか。このあとお話しする1700年代のマホガニー材の登場まで、イギリスをはじめとするヨーロッパ各地で最もよく使われた木材であり、今でもたくさんのオーク材製アンティークチェアが見つかります。
オーク材は、くっきりとした木目と、重厚な雰囲気を漂わせる質感が特徴的。イギリスアンティークといえば、まずはこのオーク材製の家具をイメージする方も多いほどのメジャーな材なんですよ。

イギリスアンティーク チェア

本来のオーク材は優しい肌色のような色味をしていますが、その時代の流行によって、明るく塗装されたものやダークな色合いに塗装されたものなど、幅広い色味のアンティークの椅子があるんです。どれだけの時間を経てきたかによっても、その木肌の色合いは変化するので、お好みの表情のアンティークチェアを見つけてみてくださいね。

17~18世紀のイギリスアンティークチェアのトレンド。艶やかな木肌が魅力の「ウォールナット材」

イギリスアンティーク 椅子 ウォールナット材

オーク材に続いて、1660年~1720年頃までのイギリスで人気を博したのが、ウォールナット材でした。ウォールナット材は、キメが細かく、温かみの感じられる柔らかな表情が特徴です。さらに目を引かれるのは、その艶のある木肌。使い込むうちに木材から油分が染み出し、年月とともに馴染むことで、滑らかで美しく仕上がっていきます。この艶やかさは、アンティークでなければ味わうことのできない魅力です。

イギリスアンティーク 椅子 インレイ

ウォールナット材は木目に締まりがあることから、ゆがみや収縮も少なく、頑丈な家具作りに向いていました。毎日実用的に使う椅子にはとても適した材なんですよ。また、家具の表面をくり抜いて、金属や象嵌などを埋め込む「インレイ」という細工も、この時期のアンティークチェアにはよく施されています。これは、木を薄くカットできるようになった17世紀頃から発展したデザインです。こうした新技術に順応できる数少ない木材だったからこそ、ウォールナット材は絶大な人気を誇ったのでした。
しかし、1709年の冬、大寒波によってヨーロッパ中のウォールナット材が激減し、時代は次の木材へと移行していくこととなったのです。

18世紀のイギリスアンティークチェアの主流は、貴族の間で大ブレイクした「マホガニー材」

イギリス 椅子 アンティーク

18世紀に入り、ウォールナット材に取って代わったのがマホガニー材です。イギリスでは、ウォールナット材が激減した後、1721年に木材の輸入税が撤廃となり、そのことを皮切りとして、西インド諸島や北米などの植民地から大量にマホガニー材を輸入するようになりました。そこから、高級家具の世界はマホガニー材が主流となったのです。そのため、この頃のアンティークチェアにはマホガニー材のものが大半です。
マホガニー材はやや赤みを帯びた色合いと光沢のある木肌が特徴で、「赤い黄金」と称されることもある、まさに高級木材。ウォールナット材と、おもに北欧家具によく見られるチーク材と合わせて「世界三大銘木」のひとつにも数えられています。

イギリスアンティーク チェアー

イギリス アンティーク チェア マホガニー

マホガニー材は木目が締まっているにもかかわらず軽量で、材質はやわらかく、加工しやすいという性質があります。そのため、オーク材やウォールナット材などの堅い木材では表現することのできなかった繊細な装飾や彫刻も可能となり、ここからイギリスアンティークの椅子のデザインの幅は一気に広がりました。このマホガニーの利点を生かしたのが、この後3章でご紹介する18世紀のカリスマ家具デザイナー、トーマス・チッペンデールです。マホガニー材がなければ、彼の活躍を中心としたイギリスアンティークチェアの全盛期もなかったかもしれませんね。

イギリスアンティークの椅子の注目ポイント② 時代に応じたデザインに注目!

イギリスアンティークチェアの2つ目の注目ポイントは、その時代ならではの特徴的なデザイン。ヨーロッパの歴史を紐解くと、中世~17世紀頃まで文化の中心を担っていたのはイタリアやフランスでした。この時期のイギリスは、これらの国から影響を受けながら、様々なデザインの椅子を生んでいきます。そして18世紀に入ると、いよいよヨーロッパの覇権はイギリスのものとなり、ここからイギリスの黄金時代が始まります。この章では、この黄金期までのイギリスアンティークチェアについて、各時代のデザインの特徴をご紹介します。

ゴシック様式のイギリスアンティークチェアといえば、「垂直で堅い背もたれ」

イギリスアンティーク 椅子 ゴシック様式

まずは、中世(12~16世紀)のイギリスアンティークの椅子のデザインを見てみましょう。この時期のヨーロッパでは、フランスのパリを中心に「ゴシック様式」と呼ばれる建築・美術の様式が誕生しました。当初は教会建築のデザインとして発展し、大聖堂の尖頭アーチやステンドグラスなどがその特徴としてあげられます。家具では、垂直を強調したシンメトリーな形や豪華な彫刻など、荘厳な見た目がポイントです。そんなデザインの影響を受けてイギリスで作られたのが、画像のような立方体的なフォルムと、堅くて垂直な背もたれを持った椅子でした。この当時の家具は富の象徴とされていたこともあり、権力を示すような迫力のあるデザインが好まれたのでしょうね。アンティークらしい重厚感を感じさせるデザインです。

イギリス 椅子 ゴシック

ところで、ゴシック様式のアンティーク家具には、なんとなく暗いイメージを抱いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。意外かもしれませんが、中世の頃のゴシック様式は、教会に使用されたステンドグラスに代表されるように、もともとは人々の信仰や希望の象徴を表すような晴れやかなイメージのものだったのです。今のように暗いイメージが定着してしまったのは、19世紀のリバイバルがきっかけ。その当時のイギリスでは、ヴィクトリア女王がアルバート公に先立たれた後でした。国全体で喪に服し、家具の色も黒一色になった時代だったことから、ゴシックスタイルには暗く沈んでいる印象が付いてしまったようです。ゴシック様式のアンティークチェアに、装飾は派手でありながらも、どこか静かな落ち着きを感じさせるものが多いのは、このような理由からかもしれませんね。

エリザベス期(ルネッサンス)のイギリスアンティークチェアといえば、「バルボスレッグ」

イギリスアンティーク 椅子 エリザベス様式

ゴシックに続いてヨーロッパを席巻したスタイルが、ルネッサンスです。イタリアで生まれたルネッサンスはフランスへと伝わり、その後、英国にも徐々に波及していきました。イギリス・ルネッサンスは、チューダー朝の時代(1509~1603年)にあたります。とくに後期の1558年~1603年は、時の女王エリザベス1世の名をとってエリザベス期と呼ばれることもあります。この時期の家具の特徴は、依然として重厚なスタイル。とくにエリザベス期のトレードマークともいえるのが、「メロンバルブ」と呼ばれる膨らみをもった脚のデザインです。植物の球根(bulbous)に似ていることから「バルボスレッグ」や「ブルボーズレッグ」とも呼ばれていますよ。このバルボスレッグは、アンティークチェアの他に、同時期に作られたアンティークテーブルにもよく見られるデザインです。テーブルはチェアに比べて大振りであるため、その分迫力のあるバルボスにも出会えます。当時はテーブルと椅子のデザインを合わせて作られていたと考えられますが、残念ながら、現在ではアンティーク家具をおそろいで揃えるのはなかなか難しいのが現状です。時の流れとともにテーブルと椅子がバラバラに分かれてしまうことがほとんどなので、セットで見つけた際にはかなり貴重な出会いだと思って間違いありません。

イギリス 椅子 バルボスレッグ

先ほど、ゴシックスタイルが19世紀に復活したというお話をしましたが、このバルボスレッグのデザインもまた、19世紀のリバイバルで蘇ります。この頃のイギリスでは、産業革命で財をなした富裕層が大きな屋敷をもち、そのような立派な邸宅に見合うような、派手な彫刻が入った家具が好まれるようになったためです。しかし、20世紀になると、時代はシンプルでモダンなスタイルへと流れはじめ、バルボスレッグもずっとシンプルなものに変わっていきます。このように小さなバルボスレッグのアンティークチェアなら、インテリアにも取り入れやすいですね。

ジャコビアン様式(バロック)のイギリスアンティークチェアといえば、「ツイストレッグ」

イギリス 椅子 ボビンレッグ

17世紀になると、「バロック様式」の時代となります。バロック様式も、生まれはイタリア、そしてフランスへと移り、その後にイギリスへと入ってきました。イタリアではカトリックの威厳を示すため、フランスでは絶対王政の力を示すためと、権力を誇示する政策として発展したバロック様式でしたが、イギリスではこれに比べると、ずっと控えめなデザインとして広まっていきます。
イギリスではこの時期の家具様式を、時の王ジェームズ1世の名にちなんで「ジャコビアン様式」と呼びます。初期の頃は、エリザベス期の影響が強く残ったデザインでしたが、次第に軽快なデザインへと変わっていきました。アンティークとして現代まで残っているこの時代の椅子の中には、たとえばボビン形の挽き物加工が施されたものが多く見つかります。

イギリスアンティーク 椅子 ジャコビアン様式

イギリスアンティーク 椅子 ツイストレッグ

ジャコビアン様式の途中、イギリスでは清教徒革命が起こり、約10年に渡って、極端なピューリタンである平民宰相クロムウェルが政治を行った時代がありました。この間には、家具に彫刻を施すのは神の意に反するという考えから、彫刻が皆無な家具が作られました。
しかし、その後チャールズ2世が王位に就くと、クロムウェルによる共和制時代に不満を抱いていた貴族たちが、再び華美で陽気な生活に戻っていき、イタリアやフランスから渡ってきたきらびやかなバロック様式が好まれるようになります。そして、「ツイストレッグ」に代表されるような、ねじりろくろを多用した椅子がたくさん作られました。脚だけでなくアームや貫にまで、ツイストの意匠や渦巻き模様が施されているアンティークチェアがたくさん見つかりますよ。

ロココ様式のイギリスアンティークチェアといえば、「カブリオールレッグ」

イギリスアンティーク 椅子 ロココ様式

バロック様式に続いてフランスで誕生したのが、ロココ様式です。ロココ様式のデザインは、流れるような曲線づかいが特徴的。とくに、「カブリオールレッグ」と呼ばれるS字を描く家具の脚のデザインは、イギリスでも大流行しました。実は、すでに古代エジプトや中国では、動物の脚をモチーフとしたデザインの椅子の脚が作られていましたが、それらがヨーロッパに伝わり定着するのは17世紀になってからのこと。東インド会社を中心とした東方交易隆盛の波に乗って、中国の椅子づくりの技術が西欧に伝えられたことがきっかけだったのです。

イギリス 椅子 猫脚

「猫脚」と一括りに表現されるデザインでも、それぞれのアンティークチェアをじっくり見比べてみると、いくつかのバリエーションがあることに気がつきます。画像の左側は、「クロウ&ボール」と呼ばれるデザイン。中国で縁起が良い生き物とされる龍が、爪(claw)で水晶のような玉を握っている様子を表現しています。このクロウ&ボールのデザインは、主にフランスやオランダで流行しましたが、イギリスに伝わると、これがライオンの脚へと変化を遂げます。画像の右側は、その一例です。イギリスでは、ライオンが王の象徴として使われていたからだそうですよ。さらに、時代を追うごとにS字のカーブはゆるやかになってゆき、18世紀後半になるとまっすぐな脚へと、だんだんと変化していきます。

イギリス家具の黄金時代を代表する、アンティークの椅子のデザイン

さて、いよいよ、イギリス全盛期といわれる18~19世紀のアンティークチェアを見ていきましょう。産業革命、植民地の広大、人口増加でイギリス全体が活気づいていく時代、どんな椅子が作られたのでしょうか。

18世紀初頭に中国から影響を受けて登場したイギリスアンティークの椅子。「クイーンアンチェア」

イギリスアンティーク クイーンアンチェア

イギリスアンティークチェア黄金期の先駆けとして登場したのが、アン女王の時代(1702-1714年)の「クイーンアンチェア」です。この時期、東方交易によって中国の影響を受けたことは先ほどお話ししましたが、その影響をもっとも直接的に反映したのがこの椅子でした。
クイーンアンチェアの見た目の特徴は、カブリオールレッグ(猫脚)と、「ベースバック」と呼ばれる花瓶の形をした背もたれ中央の背板(スプラット)。このスプラットは、腰椎の自然なカーブを支えるように滑らかな曲面を描いていました。これは、世界で初めて中国で習得された医学的知見に基づいたデザインだったのです。このため、クイーンアンチェアは、座り心地の良いアンティークチェアとしても知られています。

イギリスアンティーク チェア カブリオールレッグ

椅子の脚は、2章の最後にお話ししたカブリオールレッグの流れを受けて、比較的ゆるやかな形となっています。足先もシンプルな「パッドフット」と呼ばれるデザインになりました。

イギリス新古典主義の時代を築いた家具デザイナーによるアンティークチェア

クイーンアンチェアは、中国趣味を取り入れた比較的シンプルなデザインが特徴的でしたが、18世紀中頃には、美的感覚重視のデザインに取って代わられます。
時は、イギリス家具史上最も有名なジョージアン期。1666年に起きたロンドン大火災からも復興を遂げ、産業革命の足音も次第に大きくなるなど、イギリスは大きな発展を遂げていく時期でした。そうした活気ある社会背景を受けて、家具の分野でも数多くのデザイナーが活躍したのです。

ロココ様式と古典主義の復活を融合。イギリス家具最盛期のチッペンデール様式のアンティークチェア

イギリス 椅子 チッペンデール様式

イギリスのアンティークの椅子の代表格として欠かせないのが、18世紀のチッペンデール様式のチェアです。トーマス・チッペンデールは、クイーン・アン様式の後に、様式名に名前を残した最初のデザイナーでもあります。それほど、彼の生み出した椅子にはインパクトがあったのですね。
この様式のアンティークチェアは、クイーン・アン様式の流れを汲み、フランス・ロココの影響も強く受けています。そのため、カブリオールレッグが多くなっているんですよ。また、このような「クイーン・アン風」の他にも、垂直な脚と背もたれにゴシックアーチを施した「ゴシック風」、背もたれにリボンが施された「ロココ風」、背もたれが真っ直ぐで竹を彷彿とさせるデザインが施された「中国風」といったタイプの椅子が作られています。

チッペンデール 椅子

トーマス・チッペンデールの名を世に知らしめたのは、1754年に彼が出版した『紳士と家具師のための指針』(”The Gentlemen and Cabinet-maker’s Director”)でした。これは最初の家具専門書とも言われています。当時のイギリスは、1章で触れたように、マホガニー材の時代。軽くて丈夫で長持ちし、彫刻も入れやすいといったマホガニー材の特徴と、チッペンデールの生み出す繊細なデザインとが見事にマッチし、ジョージアン時代の家具はマホガニー材一色となりました。良質な木材とたしかな職人技が融合することで、かつてないほどの素晴らしい家具が数々作り出されたことが、このジョージアン時代をイギリス家具の黄金期と言わしめる所以なのです。

シールドバックのデザインで知られる、ヘップルホワイト様式のイギリスアンティークチェア

イギリスアンティーク 椅子 ヘップルホワイト様式

チッペンデールに続いて登場したのは、ジョージ・ヘップルホワイト。この時ヨーロッパでは、バロックやロココの反動として新古典主義(ネオクラシシズム)が起こっていました。彼はイタリアのポンペイ遺跡の発掘に影響を受け、古典的な作品を数多く発表、イギリスにおける新古典様式を『箱物家具師と室内装飾家の手引』(”The Cabinet maker and Upholsterers’ Guide”)にまとめています。

イギリス 椅子 ヘップルホワイトヘップルホワイト様式のアンティークチェアの最大の特徴といえば、盾形やハート型の背もたれ。一度見たら忘れられないような独特なインパクトがありますよね。背もたれに施されている彫刻は、麦の穂、シダの葉、スイカズラ、花飾りなど。この時期の椅子における審美性の追求は主として背もたれのデザインに集中しました。
脚は直線的で、下に向かうほど細くなります。足先は、トランプのスペードを反対にしたような形の「スペードレッグ」と呼ばれるデザイン。
チッペンデール様式と同様に、材料はマホガニーが主流で、彫刻や象嵌を多用しているのも特徴です。また、椅子の張地は、このようなストライプが多かったようです。

実用性と美しさを兼ね備えた軽快なフォルムが特徴、シェラトン様式のイギリスアンティークチェア

イギリスアンティーク 椅子 シェラトン様式

チッペンデールとヘップルホワイトに続いて登場したイギリスの家具デザイナーが、トーマス・シェラトンです。彼も、前2人のデザイナーから続くデザイン教本出版の流れを引継ぎ、『箱物家具師と室内装飾家のための図案集』(”The Cabinet Maker and Upholsterer’s Drawing Book”)や、『家具製作のデザイン事典』(”Designs for Furniture, The Cabinet Dictionary”)を刊行しています。こうした教本があったおかげで、この時代のイギリスの椅子作りの内容がヨーロッパ全土、さらには遠くアメリカにまで伝わったのでした。
シェラトンはまた、ローマ時代への復帰を表すような簡素なデザインが特徴の、フランスのルイ16世様式からも影響を受けており、そのため、簡潔で品位のある機能的な様式が完成されました。

イギリス チェア アンティーク

彼の生み出したアンティークチェアは、背は構造的にデザインされ、横木と縦木のバランスがよく、四角張った形が特徴的です。全体としては、直線構成に基礎をおきながらも、微妙な曲線を用いて柔らかで優美な感覚をもたせるという、古典的でありながらも洗練された雰囲気を感じさせる椅子に仕上がっていますね。

古典への回帰と異国趣味が同時に進行。19世紀のリージェンシー様式のイギリスアンティークチェア

イギリスアンティーク 椅子 リージェンシー様式

さて、ここから19世紀に入ります。欧州大陸では、フランス革命の後、ナポレオンのエジプト遠征などもあってエジプト趣味が人気を博し、擬古調が主流になりました(アンピール様式)。
イギリスも、古代エジプトやギリシアの装飾様式を取りれたこの様式の影響を受けました。この時代に活躍したデザイナーに、トーマス・ホープがいます。彼はエジプトへの渡航経験をもち、エジプトの美術様式を取り入れた家具をたくさん生み出しました。
画像は、この時代の代表的なデザインの椅子。この時代のイギリスアンティークチェアには、古代ギリシアで生まれたクリスモスチェアから影響を受けた、このような椅子が多く見受けられます。

イギリス チェア

もうひとつ、この時代に代表的なものとして、図書用折り畳み式踏み台があります。このように踏み台を起こすと椅子になる構造で、なんとも画期的なデザインですね。

様式からの脱皮へ。様々な折衷スタイル家具が生まれた、ヴィクトリア時代のイギリスアンティークチェア

イギリスアンティーク 椅子 ヴィクトリアン様式

19世紀も中頃になると、イギリスでは復古的な家具のデザインが多く見られるようになりました。ネオゴシック、ネオバロック、ネオロココなど、スタイルの混乱した時代となり、ゴシック式の直線構成があれば、カブリオールレッグや挽き物脚などもあったりと、実に様々です。それまでに流行したデザインを全て取り入れ、多様な折衷スタイルが生まれた時代といえます。
それぞれの様式の中から特徴的な装飾やデザインを抽出して作られた、このヴィクトリア時代の椅子は、機能的で見た目にも美しく、また、比較的時代も新しいことから、アンティークチェアの中でも現代に残り続けているものが数多くあるんですよ。

この後20世紀に入ると、生産工程の機械化や合板などの新素材の導入など、イギリスの椅子にも新たな局面が登場しますが、まだ19世紀のヴィクトリア時代には、無垢材がふんだんに使われ、彫刻・象嵌・突き板の装飾的な貼りあわせなど、ハンドクラフトに頼る伝統的技術は多く残されていました。このことにより、この時期のイギリスアンティークの椅子は、他の量産型チェアなどから一線を画す存在となっているのです。

ヴィクトリア時代のイギリスで流行!背もたれが気球のような形をした、アンティークの「バルーンバックチェア」

イギリスアンティーク バルーンバックチェア

様々なスタイルが混在したヴィクトリア時代ですが、その中でもイギリスで独自に生まれたデザインの椅子として、「バルーンバックチェア」が挙げられます。その名の通り、背もたれの輪郭がバルーン(気球)のような形になった形状の椅子のことで、優雅でエレガントな雰囲気が魅力的です。

このバルーンバックチェアをはじめ、この時期のイギリスアンティークチェアは、脚のデザインも多様。「フルーティング」と呼ばれる溝が掘られたデザインや、挽物細工が施されているもの、そしてやっぱり人気のカブリオールレッグ(猫脚)など、様々な様式が入り混じったこの時代ならではのバリエーションを楽しんでみてくださいね。

イギリスアンティークの椅子といえば、カントリーチェアも見逃せない!

ここまでご紹介したイギリスアンティークチェアは、王や貴族の権威の象徴として豪華に作られたのものでした。一方で18世紀頃からは、庶民の生活に必要なものとして作られた椅子も登場します。ここでは、そんな庶民の椅子、カントリーチェアを見ていきましょう。

17世紀にイギリスのハイウィッカム地方で誕生した椅子。アンティークの「ウィンザーチェア」

アンティーク ウィンザーチェア

1700~1725年頃、イギリスのハイウィッカム地方で誕生したとされる、「ウィンザーチェア」。時代は、クイーン・アン様式です。このクイーン・アン様式のデザインを真似て、農民用の実用的な椅子として作られたのがはじまりとされています。そのため、オリジナルのウィンザーチェアの脚は、カブリオールレッグだったのだとか。しかし、その後のチッペンデールやヘップルホワイトらの時代に、デザインに手が加えられ、現在私たちが目にするような、素朴な中にも美しさが漂う、より洗練された姿が定着したようです。
背もたれの形により、櫛(くし)のような「コムバック」と、弓のように湾曲した「ボウバック」に分けられます。

ウィンザーチェア アンティーク

また、1840年頃には、「スモーカーズボウ」というスタイルが誕生します。丈夫で機能性が高いため、公共的な場で多く用いられていました。背もたれが低く、背中全体というよりは腰を支えてくれるような作りですね。アンティークのウィンザーチェアの中でも人気のあるデザインです。

アメリカのコロニアル様式にも通じる、アンティークの「ラダーバックチェア」

ラダーバックチェア アンティーク

背もたれが高く、梯子(はしご)のようなデザインをした椅子のことを「ラダーバックチェア」と呼びます。とくに17世紀のアメリカ・コロニアル様式や、18〜19世紀のシェーカー様式に特徴的ですが、イギリスアンティークの椅子にも定着しているデザインです。
直線的な構成で装飾はほとんどなく、機能性を追求したシンプルな形が特徴です。画像のように、座面にはイグサが張られ、脚には挽物が施されているものが多くあり、カントリーチェアらしい素朴な温かさが感じられます。

19世紀頃から教会に広く普及した椅子。イギリスアンティークの「チャーチチェア」

アンティーク チャーチチェア

「チャーチチェア」とは、その名の通り、教会で使われていたアンティークの椅子のことです。教会で使われていたことを示すような、十字架のモチーフが施されていたり、背もたれには聖書を入れておくための「バイブル・ポケット」と呼ばれる収納がついていたりと、他のアンティークチェアにはない魅力が満載の椅子です。アンティーク好きやインテリア好きな方の間でもとても人気があるんですよ。

イギリスアンティーク チャーチチェア

当時、ほとんどの教会では、礼拝堂の雰囲気を損なうことがないよう、またコスト面からも、同じサイズ、素材、形に統一された椅子が使われていました。そのため、アンティークとしては珍しいことに、運が良ければ同じデザインのチャーチチェアを揃えることも可能なんです。

19世紀、ドイツ・オーストリアで生まれた椅子。アンティークの「ベントウッドチェア」

アンティーク ベントウッドチェア

ドイツ生まれのミヒャエル・トーネットが生み出したのが、この「ベントウッドチェア」(曲げ木椅子)。蒸気の力で木材を弓のように湾曲させる技術を開発し、このようなしなやかなフォルムを実現させたのです。その後、イギリス、フランス、ベルギーに特許を出願し、独創的な椅子を数多く世に送り出しました。
機械生産のため工法が単純で安価であること、曲げ木加工のためジョイント部分が少なく強度が強いこと、そして、美しい見た目でデザイン的にもインパクトがあったことなどの理由から、ベントウッドチェアは世界中に普及しました。現在でも、アンティークチェアの中でも人気の衰えない椅子となっています。

実はイギリス発祥!人気のモダン家具ブランドのアンティークチェア

さて、2章〜4章に渡って、中世から19世紀までのイギリスのアンティークの椅子について整理してきました。続いては、20世紀から現代にも通じる、2つの英国モダン家具ブランドが生み出した椅子について見てみましょう。

シンプルモダンで取り入れやすい!大人気の英国老舗家具ブランド、アーコールのアンティークチェア

イギリス アンティーク アーコール チェア

こちらは、言わずと知れた有名ブランド、アーコール(Ercol)のアンティークチェアです。ひょっとすると、「アーコールって北欧家具では?」と思う方も多いかもしれませんね。実はこのアーコール、イギリス生まれのブランドなんです。1920年に、イタリア人移民のルシアン・アーコラーニによって設立されました。
アーコールは、4章でご紹介したウィンザーチェアの形を踏襲しながら、曲げ木の技術を取り入れて、シンプルで洗練された椅子をたくさん生み出しています。バリエーションも豊富で、中にはアンティークでしか出会えないデザインもあるんですよ。すっきりとした見た目はどんなインテリアにも取り入れやすく、現代でもおしゃれな椅子の代名詞として世界中で愛されているチェアです。

北欧家具の影響を色濃く反映。スタイリッシュな英国ブランドG-PLANのアンティークチェア

イギリス チェア G-PLAN

北欧スタイル家具として、アーコールと並ぶ人気を集めるブランドが「G-PLAN(ジープラン)」です。イギリスの家具メーカーE.GOMME社が、シンプルでモダンな家具というコンセプトのもと発表したシリーズで、1960年代からは、デンマークのデザイナーを起用し、本格的な北欧スタイルの家具作りに取り組みました。そのため、北欧家具によく見られるような、チーク材の温かな木肌や、スタイリッシュなフォルムなどが非常によく取り入れられています。
これまでとは違った新しい価値観を感じさせるような、まさにミッドセンチュリー時代を代表するスタイルの椅子と言えるでしょう。

最後に

中世から20世紀まで、歴史の流れに沿って様々なイギリスアンティークの椅子をご紹介してきました。なんとなく素敵だなと思っていたイギリスアンティークチェアについて、理解が深まり、さらなる魅力を感じていただけたならうれしいです! お気に入りの1脚を見つけたら、ぜひ、その椅子が作られた遠い国の当時の状況にも思いを馳せてみてくださいね。こうした楽しみ方ができるのもアンティークならではではないでしょうか。

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